T’s Bakery インタビュー

今回ご登場いただくのは、ホシノ天然酵母と自家製酵母を使ったパン工房『T’s Bakery』さん。
アレルギーにも配慮した風味豊かなパンが並ぶ、イートインもできる居心地のいいパン屋さんです。
お店を始めたきっかけや酵母などについて、鳥居本さおりさんにお話をうかがいました。


『T’s Bakery』の店名の由来を教えてください。

私と主人が鳥居本(とりいもと)という名前なので、頭文字を取って T’s にしました。

ご夫婦で経営されているんですね。珍しいお名前ですが、ご出身はどちらですか?

もともとは滋賀だと聞いていますが、主人は鳥越出身で、私は船橋です。

なぜ蔵前を選ばれたのですか?

子供達の近くで仕事をしたかったのもあって、徒歩や自転車で通える圏内で探していました。私はもともと会社員で新宿に勤めていて、東日本大震災の時に歩いて帰ってくるのに3時間以上掛かったんですよね。
うちは子供が3人いて、その頃はまだ小さかったんです。息子がインフルエンザでお休みしていて、たまたま主人が家に居たからよかったんですけど、下2人はまだ保育園で、迎えに行ってもらって私が帰ってきたのが22時近くでした。なので、次に仕事をするなら絶対に歩いて帰れるところ!って。
ここがたまたま空いて、居抜きで入らせていただいたのがきっかけです。

会社にお勤めされていたんですね。ご主人の前職は?

主人も会社員です。私達は脱サラなんです。20年くらい会社員をやっていて、この先も長く続けられるかなと考えた時に、やりたい事やろうかなと、切り替えたのがきっかけです。退職したタイミングは私のほうが少し早くて、お店の場所を探して主人を巻き込んだような形です(笑)
一人でやるには朝が早いですし、子供達の送り迎えもあって難しいし、主人もちょうど転職を考えるタイミングだったので「じゃあ、一緒にやらない?」みたいな感じでした。

パンに係わるお仕事をされていたわけではないんですね。パン屋さんを選ばれたきっかけは?

私がパン屋さんで働きたいという希望がありました。でも、会社員の時も時短を使っていたり、子供の熱が出たら呼び出されたりしていたので、ご迷惑をお掛けしてしまうだろうから踏ん切りがつかなくて。それなら、二人で近くで始めた方が何かあればどちらかが迎えに行けるし、新しくパン屋さんに飛び込むより、自分たちのペースでやった方が私達の働き方に合ってると思ったんですよね。

パン作りについてはどこかで学ばれたんですか?

笹塚にある、ホシノ天然酵母を使った『トゥルナージュ』というお店です。そこにパン屋さんになるための養成コースがあって、せっかく習うのであれば本格的にパン屋さんで学べるところにと思って。研修と実際にお店に出すパンを焼くという感じで半年間くらいです。仕事をしながら週末に無給で習うという形で学ばせていただきました。
主人はそこにもう一つあるパン教室で少し教わって、ほぼ独学です。ものづくりは好きみたいですけど、パン屋さんになりたいとかは特に考えてなくて、私が誘うと「じゃあ、やろうか」みたいな感じでした(笑)

天然酵母を使われている理由など教えてください。

うちでメインに使っているのがホシノ天然酵母で、お米と小麦と麹が原料のお米由来の酵母です。イーストだと家である程度のことはできるし、せっかく子供を預けて教室に行かせてもらうのであれば、教えてもらわないとわからないようなことを習って、仕事に繋げたかったんですよね。本格的なところを調べていて、ホシノ天然酵母のパン屋さんを育てる教室に出会ったのがきっかけです。

同じ教室出身の方のパン屋さんはいくつかあるんですか?

卒業してお店を始められている方は全国にいらっしゃいます。飛行機で教室に来られる方もいたり。15年くらい前ですけど、そのころは今みたいに天然酵母を使うパン教室とか無かったですしね。

自家製酵母というのは、どういったものなのでしょう?

(写真A)自家製酵母:味わい深いパンになるのが特徴で、ハード系のパンに使用されています

これがブドウとお水からおこした自家製酵母です(写真A)。左側のビンが日数が経つと開けた時「ポン!」と音がして「シュワシュワ~」となってブドウジュースや、アルコール臭をとったワインのようないい香りがします。
これが上がってきて下に澱が溜まるんですけど、そうすると酵母の出来上がり。それが元液で、そこに全粒粉を混ぜて発酵させます。ブドウ酵母を濾した元液と全粒粉を混ぜると、「プクプク」と右側のビンのように上がってくるんです。これが自家製酵母の元の膨らませる種になって、自家製酵母のバケットなどはこれを使っています。

元液ができるのに5日くらい、右が2日掛かるので、使える状態になるまでは1週間くらいです。右側のものはまだ1回目なので、明日もう1回同じ量を混ぜます。今日1キロくらい作ったので、さらに全粒粉と水を1キロずつ混ぜたものと、これを足してさらに発酵させる。そうしたらやっと使える感じです。
そして、こちらがホシノさんという方が作られた、ホシノ天然酵母(写真B)。これにお水を足して混ぜたもの(写真C)を、36時間くらい一定の温度でキープすると「プクプク-」となって、酒粕のような香りがしてきます。こちらは今日作ったものなので、明日36時間後くらいに出来上がって冷蔵で保管します。

左:(写真B)  右:(写真C)

生きている感じがわかりますね。酵母を使っていないパンと手間はどれくらい違ってきますか?

通常パン屋さんで使うイーストだと、捏ねて焼くまでの全体の工程で2時間くらいでできます。天然酵母だと発酵するのに倍以上の時間が掛かるので、手間も掛かりますね。自家製酵母は夏はわりと早くて4日くらいで発酵しますが、冬は常温でなるべく温かいところに置いても、寒いと1週間くらい掛かる場合もあります。

天然酵母のものと、そうでないパンの違いは?

天然酵母は時間を掛けて自然の発酵の力を使っているので、粉の旨味を最大に引き出してくれます。安心して粉の風味を感じながら召し上がれる。パンを割ったときの香りもすごく良くて、小麦粉の香りがします。イーストだと、たまにイーストの香りがしたりします。
あと、うちは全部国産の粉を使ってるので、天然酵母と合わせることでかなりモッチリするんです。モッチリしてるのでしっかり咀嚼をしないと食べられない。私達のお店は小さいお子さんも多いので、咀嚼をして欲しいと思っています。いくらでも食べれちゃうのではなくて、2つ食べれば「しっかり食べた!」っていう感じになるものを子供達に食べさせたいという思いもあって、手間が掛かっても天然酵母を選んで使ってます。
イーストには早くできるというメリットがあって、パン屋さんにとっては回転を良くして焼きたてを提供できますし、使い方だと思います。うちは焼ききって売れたらおしまいというスタイルなので、回転率は悪いです。じっくり寝かせたこだわりのパンを提供したかったら酵母、普段使いの柔らかいパンだったらイーストでとか、使い分けてらっしゃるところも多いですよ。イーストの方が断然柔らかくできますしね。
うちは1人アレルギーを持った子供がいたので、商品にはすべて卵を使ってないんです。でも、天然酵母だと卵を使わなくてもしっかり味があるものを作れるので、そこも私達には合ってますね。

お客様は小さいお子さんがいらっしゃるお母さんが多いですか?

そうですね。でも、男性のお客様が食パンとかイギリスパンを買われたり、お昼も男性が多いです。火曜はこの方、水曜はこの方という感じで結構決まった方がいらして、ゆっくり過ごして帰られます。あと、お孫さんを連れたおばあちゃんだったり年齢層は幅広いですね。卵を使ってないパンがあると聞いて、ご来店される方も多いです。

酵母は身体にも良いですよね。

そうですね。私がパンを学び始めたきっかけが長男で、私が帰って夕飯を作るまではお腹が保たなくて、仕事から帰るとコンビニのパンでお腹いっぱいにしちゃってたんです。それなら自分で作れないかなと思ったのが最初のきっかけで、見よう見まねで作ってみたのが始まりです。
それに、娘が卵アレルギーで、保育園がパンの日はパン持参だったんです。もともと小麦もダメでおにぎりを持たせていたのですが、パンを持っていけるようになった時には「絶対私が作ったパンを持たせたい!」という思いがありました。小っちゃい丸パンを作ってあげたらすごく喜んでくれて、みんなと少し違うパンを持っていけるからパンの日が嬉しいって。お友達が娘のパンをいいなって言ってくれたって嬉しそうに話してくれたので、「よし!」みたいな(笑)
卵がダメでも食べられるんだよ、ってことを教えてあげたかったんです。

お子さんへの愛情からはじまったんですね。素晴らしいです。

とにかくみんなと同じものを食べさせてあげたいという思いがありました。

お店で人気のあるパンを教えてださい。

甘い菓子パン系が人気で、あんパンとかメロンパン。月曜・水曜日限定のシナモンロールも人気がありますね。それから、食パンやイギリスパンなども。1日にたくさんは焼けなくて数が限られてしまうので、午前中に無くなってしまうこともあります。

お昼に食べさせていただいてる時も、どんどん買いに来られますし、遠くから来られる方も多いみたいですね。

そうですね。遠くから来て頂いたのに無いっていうのは申し訳ないので、お電話いただければお取り置きもしてます。

ご自身が一番お好きなパンは?

一番思い入れのあるパンは豆乳クリームです。娘にクリームパンを食べさせたくて、卵がダメでも豆乳なら大丈夫なので、いろいろ試作を重ねて作ったものがお店でも好評いただいています。
以前『パン祭り』で出したとき、卵と乳製品が食べられない男の子が買いに来てくれたんです。1個買って帰って、また来てくれて「食べたら美味しかった」って買って帰って、また来て帰って、結局5回くらい来てくれて。5回目には売切れちゃってて申し訳なかったんですけど、「クリームパンを食べたの初めてです」って。わざわざお母様が神奈川の方から買いにいらっしゃってくれてたんですけど、お子さんとまた来てくれた時は、嬉しくて泣きそうになっちゃいました。

販売はこちらのお店のみですか?

毎週木曜日に『松屋浅草』さんで3種類だけ展開させていただいてます。あんパンとシナモンロールと今月からはあんこクリームを。あんこの上にクリームを乗せた、ちょっと冷たいパンをモノマチ限定でお出ししてるんですけど、松屋さん限定のものをご要望いただいたので、そちらを提供することになりました。1階奥の「下町銘菓撰」コーナーのレジ横に置いてあります。

好きなパン屋さんや忘れられないパンなどあれば教えてください。

私がいま一番好きなのは、東京駅の丸の内側にある『VIRON』のバケットです。フランスのバケット専用の粉で作られてて、本当にバリッとした堅いバケットなんですけど、堅いバケットが食べたいというお客様にはそこをオススメしてます。あとは銀座マロニエゲートにある『ビゴの店』の、自家製酵母からおこす「パン・オ・ルヴァン」というパンで、少し酸味があるんですけど美味しくて大好きです。『ビゴの店』に行って、歩いて『VIRON』へ・・・というコースがお気に入りです。

他のパン屋さんの食べ歩きとかはされたりしますか?

行きたいと思いながら行けてないところもありますが、この前やっと馬喰町の方にできた『ビーバーブレッド』に娘と行けました。新しいお店で、シェフが本を出されるくらい有名な方みたいです。

ご趣味などを教えていただけますか?

昔は旅行でした。カメラが好きで、いろいろな所へ行って好きな風景の写真を撮ったりしていました。いまはお菓子作りですね。お店では卵を使わないので、家ではしっかり卵を使ったものを。娘が卵を食べられるようになったのでチーズケーキとか、お休みの日にはいろいろ作ったりしてます。

ご主人のご趣味は?

ジョギングです。体を鍛えるのが好きでジムに行ったり、休みの日はだいだい走りに行ってますね。私は基本走るの嫌いなので無理ですね、もっぱら川沿いでウォーキングです(笑)

蔵前でオススメの場所やお店を教えてください。

ワークショップで作った『foo..』さんのぬいぐるみ(左)と『花楽堂』さんのハーバリウム(右)

3件あって、1つが『comete』さんというお花屋さん。子供が同級生なんですが、オーナーがとっても明るくて素敵な方です。お花の状態がいつも良いし、卒園や卒業のシーズンに造られている造花のコサージュも種類が豊富ですごく素敵で、大好きですね。
あと、ぬいぐるみ屋さんの『foo..』さん。可愛くて肌触りのいいぬいぐるみで、お友達の誕生日プレゼントなどに娘と買いに行ったりします。娘達も毎年ワークショップに参加するくらい大好きです。
もう1件は『LITSTA』さんという革のお店で、お財布を愛用してます。1年しか使ってないんですけど、カラシ色からキャメル色っぽくなってきて、中も使いやすい。定期的にワークショップをやられてて、積極的に地元の方に情報を発信されてるお店です。

縁の木』さんのコーヒーを使われていますが、もともとお知り合いですか?

オープン初日に来てくださったんです。直接の知り合いではなかったんですが、保育園のママ友が白羽さん(縁の木オーナー)ともママ友で、その繋がりでパン屋さんができると聞いたみたいです。
白羽さんはすごくリサーチされていて、新しいお店には必ず足を運ぶようにされてるそうです。もとは別のところにコーヒーをお願いしてたんです。でも、実際にパンを召し上がってくださっている方に、うちのパンに合うコーヒーを作ってもらえたら嬉しいな、と思ってお話したら「ぜひ!」ということで、お付き合いが始まりました。
彼女も、もともと違う業種から入られて、育児をしながらお店をやってるので共通点があるし、来てくれると長く話し込みますよ(笑)いろいろ勉強させていただいてます。

コーヒーはこちらのお店のオリジナルですよね。

『縁の木』さんの店頭には出してないお豆を使ってくださってるみたいです。パンに合わせて夏は酸味を、冬は苦みを少し強めにとか、少しずつ変えてくださっています。毎年その時の暑さなどで考えて作ってくださるので、全部お任せしています。

モノマチに参加されてますが、ワークショップをやられているのですか?

浅草橋にある『花楽堂』さんのオーナーの奥様が、ハーバリウムやアクセサリーを作るのが得意な方で、『花楽堂』さんでは場所がないので、「ここ使える?」「ぜひ使って」って。そこもママ友なんです(笑)『花楽堂』さんがワークショップを、うちはパン販売をするということで参加しています。今年2年目で、ワークショップもすごく丁寧に教えてくださるし、お花の材料もたくさん持ってきてくださって、大好評でした。
うちは通常土日はお休みなので、平日にいらっしゃれない方に知っていただくいい機会だと思っています。

ママ友でいろいろ広がるんですね。

この辺は自営業の方がすごく多いので、その繋がりも多いです。オープンの時も何も宣伝してなかったんですけど、みんなが広めてくれました。地元の方達が保育園繋がりなので、それぞれいろんな小学校に進んで、そこでまた宣伝をしてくれて。「天然酵母使ってるから行ってみて」とか「卵を使ってないから」とか。友達に本当に助けてもらいました。

週末に蔵前に来る方が増えてるようですが、問合せなどありますか?

たまにあります。いまは土日祝日が基本の定休日なんですけど、子供達のイベントなどが無くて開けられる時は、土曜や祝日に開けるようにはしていて、やっぱりいらっしゃる方多いですね。平日は午前中にお客様が多いんですが、土曜はお昼くらいから閉店までに集中します。街歩きに来る方が本当に増えてますよね。
いまは私が子供達の学校行事などが入ると平日にお休みすることもありますし、子供達優先で動いてます。いつか落ちついたら土日もやろうかな?と思っています(笑)


酵母について丁寧に説明してくださった鳥居本さん。ご家族への思いや、愛情あふれるお人柄が伝わってくるインタビューでした。
心も身体も嬉しくなる美味しいパンに出会えます。手間を掛けたこだわりの酵母パンを、ぜひ味わってみてください! ランチにもオススメですよ!
※行かれる際は、Facebookの営業日カレンダーを確認されると安心です。

 

T’s Bakery

住所: 〒111-0051 東京都台東区蔵前4-31-4
電話: 070-1370-0519
営業時間: 10時~17時30分
定休日:土曜・日曜・祝日
Facebook:https://www.facebook.com/tsbakery.3/

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